体内時計のメカニズムについて
生物の身体のなかで、睡眠と覚醒をコントロールする司令塔は脳です。以前には「脳のなかの覚醒中枢(意識を維持する部分)が休んでいる状態が睡眠である」と考えられた時期もあじました。しかし現在では、「脳内に睡眠中枢かおり、その働きによって生物は眠る」と考えるのが定説になっています。
睡眠を調節するメカニズムには、2つの機構があります。ひとつは恒常性維持機構、もうひとつは体内時計機構。少しむずかしい言葉ですが、「恒常性」というのは、体内を一定の状態に保って生命を維持しようとする働きです。
日中、私たちが目覚めた状態で活動していると、体内に睡眠促進物質がたまり、それが引きがねとなって眠くなってきます。しかし、眠り続けるようなこともありません。このように、睡眠と覚醒が交互に訪れるよう保っているのが恒常性維持機構です。この働きは時刻とは関係なく、覚醒していた時間の長さ、すなわち睡眠不足の度合いによって決められます。睡眠が足りないときほどメカニズムが強く作動し、長く、深く眠ろうとするわけです。
一方の体内時計機構は、時刻依存性のシステムです。十分に眠った翌日でも、夜になって一定の時刻になると、自然と眠気がやってくる。これは、睡眠が始まるタイミングを、私たちの脳のなかにある体内時計が管理しているからです。
体内時計が刻む時間は、驚くほど正確です。目覚まし時計をセットしておいても、アラームの鳴る数分前になると自然に目が覚めるという方は多いでしょう。また、日中には眠気を感じていたのに、夜になるとなぜか頭が冴えてくるという人も少なくはないはずです。体内時計がその人の毎日の生活リズムを正確に記憶し、睡眠と覚醒のスイッチを切り替えているからです。
しかし一方、体内時計はたいへん繊細です。さまざまな刺激や条件によってズレを生じたり、微妙なズレを修正したりしています。刺激となるものは食事や運動、疲労、精神的ストレスなど数限りなくありますが、もっとも大きな要素は光です。まぶしい朝日、夕暮れどきの薄れゆく光、チカチカとまぶしい繁華街のネオン、そして寝室の照明……。こうした光がすべて体内時計を狂わせる要因となります。
不眠症や時差ぼけの改善薬として、メラトニンという物質が注目されたことかあります。メラトニンは脳の松果体という部分で分泌されるホルモンですが、おもしろいことに光の刺激とちょうど逆の働きをしています。夕方から夜にかけて産出され、深夜にもっとも高い数値を示し、朝になるとまったく産出されなくないのです。このことから、メラトニンは脳の睡眠中枢に作用する物質だと考えられています。朝になってメラトニンが産出されなくなるのは、睡眠に終わりを告げる合図なのでしょう。
このように、私たちの睡眠覚醒リズムは、外界の環境変化と脳内にある調整機構と、両方の作用を受けながら微妙なバランスで成り立っているのです。
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